カテーテル治療の有効性 Effectiveness of Endovascular Therapy (EVT)

足趾壊疽に対するカテーテル治療
(血管内治療 EVT)

カテーテル治療とは、血管内治療(Endovascular therapy: EVT)といわれ、血管を切開することなく針を刺して、そこからカテーテル(プラスチック製の細い管)を血管内に挿入し、カテーテルの先に付いている特殊なプラスチック製の風船で狭くなった部分を高圧で押し広げる方法です。

簡単な治療なので患者さんの体への負担は小さいのですが、血管を無理に押し広げるため血管が広がると同時に血管の壁が高度に傷害されます。血管の壁、特に内膜(壁の内側)に裂け目ができるか、はがれてきます。それにより足部は血流が少ないので急性血栓症により重症血行障害を発生する危険性があります。〈図1〉にカテーテル治療後の血管傷害により、救済に難渋した例や救済不可能となった例を提示します。

早期に異常を発生せず血行障害が改善に向かったとしても、それは一時的で長期的には異常を発生します。傷害を受けた血管壁の細胞は長期的に死滅します。
「徹底的に血管を広げました」と言う医師がいますが、それは「徹底的に血管を傷害しました」ということですので、その後に起こってくる生体反応が重大な問題を引き起こすことを知るべきです。
傷害された血管は修復しようと反応をはじめます。内面に平滑な膜が形成されますが、問題はこの膜が一定で治まらずに厚さを増し続け(内膜肥厚といい、血管内側の壁が厚くなってくる生体反応)、内腔が再び狭くなってきます。これが再狭窄といわれる合併症で、放置されると血管は再狭窄・再閉塞を発生すると同時に壊疽は悪化します。

この反応は1〜数ヶ月の間に発生し、全く治療前の状態に戻ってしまい、その過程で壊疽は一層拡大します。この現象は細い血管ほど影響を受けやすく、膝下の細い血管に病変が発生する糖尿病では繰り返しEVTが行われるわけです。
また糖尿病にみられる動脈の石灰化は十分に拡張が得られず狭窄部が遺残するため、効果が不十分となり潰瘍や壊疽切除創の治りが良くないという結果になります。

これらの理由により EVT は治療が簡単で、臍から太ももの太い血管には有効ですが、合併症も少なくありません〈図 2, 3〉。細い血管では合併症が多く〈図4〉、石灰化した血管には効果が不確実で長持ちしないため、糖尿病、バージャー病、膠原病関連血管炎などの患者さんには閉塞リスクが高く行うべきではありません

カテーテル治療とバイパス手術の
治療効果の比較

下肢動脈閉塞症に対するバイパス手術は半世紀以上の歴史があり、大動脈から大腿動脈閉塞では人工血管、膝下から足部動脈閉塞には静脈血管移植により下肢救済が行われてきました。バルーンによる血管を拡張させるカテーテル治療は1970年以降に導入され、初期は太い動脈に適用されていましたが、2000年以降徐々に膝下血管にも適用されるようになりました。
人工血管同様大血流が流れる太い血管では治療結果が良いですが、膝下血管では再閉塞率が高く、ここに来て漸くバイパス手術がカテーテル治療よりも治療効果が優れていると言う結果が欧米の研究で報告されています1 2 3。バイパス術はカテーテル治療に比べ、あらゆる例に実施可能で、効果の確実性・即効性・耐久性のいずれにおいても優れています

膝下血管病変に対するバイパスとカテーテル治療の優劣に関し、米国では10年以上前から臨床比較試験が行われ、2022年11月に待望の結果が公表されました。
足関節以上の切断、再血行再建術(再バイパス、グラフト修復術、血栓摘除、溶解療法)、死亡の発生は、バイパス群42.6%に対してカテーテル治療群57.4%で、バイパス手術の方が有意に優れていることが証明されました。(HR, 0.68; 95% CI, 0.59-0.79; P<0.001)1

この結果についてDr. Menardは欧州血管外科学会誌の論説で、「バイパス術は合併症の防止、再手術の防止、下肢救済の点でカテーテル治療より有意に有効であり、従って下肢救済のためのカテーテル治療第一選択主義あるいはカテーテル治療だけの治療方針をとることは誤った考え方であり、最早次の治療体系に移行する時である」と述べている2

  • Farber A, Menard MT, Conte MS, Kaufman JA, Powell RJ,Choudhry NK, et al. Surgery or endovascular therapy for chronic limb-threatening ischemia. N Engl J Med 2022;387:2305e16.
  • Menard MT. Editorial: The BEST-CLI Trial: Implications of the Primary Results. Eur J Vasc Endovasc Surg 2023;65:317-319
  • Editor's Choice - Infra-inguinal Endovascular Revascularisation and Bypass Surgery for Chronic Limb Threatening Ischaemia: a Retrospective European Multicentre Cohort Study with Propensity Score Matching. Ricco, Roiger RJ, Schneider F. Eur J Vasc Endovasc Surg (2023) 66, 531e540

カテーテル治療の問題点の要約

残念ながらいまだに不適切で無用なカテーテル治療が行われ、このような切断の必要がないはずの患者さんが大切断を受け、
無用な医療費が消費されている現状は現代医療の大きな汚点です

前述の研究成果を踏まえてカテーテル治療が適正に行われるようになることを念願する次第です。