血管炎症候群 Vasculitis Syndrome

血管炎症候群とは

動脈閉塞症を発生する動脈硬化症以外の疾患として血管炎があります。
いろいろな原疾患により血管炎が発生し、血管炎症候群としてまとめられています。

この中にはバージャー病、膠原病関連血管炎、大動脈炎、抗リン脂質抗体症候群による血栓症などいろいろな病気が含まれ、決してめずらしい疾患ではありません。

膠原病関連血管炎

膠原病
関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis=RA) 全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus=SLE) 全身性強皮症(Systemic Scleroderma=SSc)、限局性強皮症 皮膚筋炎(Dermatomyositis Complex=DM) / 多発性筋炎(polymyositis=PM) 結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa=PN) 混合性結合組織病(mixed connective tissue disease=MCTD)
膠原病類縁疾患
シェーグレン症候群(Sjögren Syndrome=SjS) 多発血管炎性肉芽腫症(Granulomatosis with Polyangiits=GPA)
(Wegener ウェゲナー肉芽腫症)
ベーチェット病(Behcet's Syndrome[disease]) 巨細胞性動脈炎(Giant-Cell Arteritis=GCA)

これらは足関節周囲の動脈閉塞症から足趾壊疽を発生します〈図1〜5〉。足部血行障害により主に趾壊疽を発生しますが、疼痛が強く保存的治療に耐えられない場合が多く、血管移植手術(下肢静脈を用いるバイパス術)による血行障害の改善が必須です。閉塞部位の特徴から膝下膝窩動脈から足部動脈(足背または足底動脈)へ下肢静脈がバイパス移植され、劇的な効果を発揮します。カテーテル治療は治療成績が悪く、悪化させる場合が少なくないため実施すべきではありません。

手術前の準備

手術にあたり膠原病の治療が重要なため膠原病内科や膠原病皮膚科との連携が重要です。膠原病に対しステロイド治療や免疫療法が行われている場合が多く血栓傾向にあるため血液凝固系や血液凝固異常に関する検査評価が必須で、抗凝固療法の併用が不可欠です。またステロイド治療を継続してきた患者さんでは手術侵襲による膠原病の増悪をさけるためステロイド剤の術前大量投与を行います。通常、術前日にプレドニン30mgを投与します。急性血栓症で発症した場合は抗リン脂質抗体症候群の抗体検査が必要です(後述)。抗体陽性ならば血漿交換など強力な術前処置が必要です。

抗リン脂質抗体症候群 aPS: antiphospholipid antibody syndrome

aPSには抗カルジオリピン抗体(aCL)とループス抗凝固因子(LA)があります。これらが抗凝固因子を抑制・阻害して血栓症を発生します。原発性と続発性があり、原疾患が特定できない場合は原発性、全身性エリテマトーデス(SLE)やその他の膠原病などに伴う場合は続発性です。下肢急性動脈閉塞症や深部静脈血栓症など発症し、血行再建の困難な病態です。aPLによる血行障害は重症急性動脈閉塞症で発症し、下肢動脈閉塞症では高率に大切断となります。血管移植手術を含めあらゆる治療に抵抗性のため下肢救済には高度の治療ストラテジーが求められますが、最近、漸く有効な治療法が見いだされつつあり救済が可能となっています〈図6〉。

レイノー症候群

手指、足趾の血管が交感神経の過緊張により高度に収縮して指趾への血行障害を発生する疾患で、手や足が紙のような蒼白後真っ赤に発赤、または紫色に変化します〈図7〉。これをレイノー現象といい多くは一過性で数分から数時間で元に戻ります。レイノー症候群には2つの形があり、手指、足趾に血管病変が無くて発生する場合をSpastic Raynoad(SR:攣縮性レイノー)、手指または足趾の血管に閉塞病変があって発生する場合をOcclusive Raynoad(OR:閉塞性レイノー)〈図8〉といいます。いずれも何らかの基礎疾患があって発症し、膠原病(MCTD, SSc, SLE, SjS, PN など高率)ではOR、バージャー氏病、TOS(胸郭出口症候群)などではSRがみられますが、原因不明の例もあり、その場合はレイノー病といいます。いずれも原疾患があればその治療が優先されます。
SRでは寒冷やストレスを避けて発生を防止し、時に血管拡張薬を内服し、通常は指の潰瘍を形成することはありません。
ORでは膠原病により指微小血管の閉塞がある場合は指潰瘍を発生し難治性となります。いずれも保存的治療が優先され交感神経切除術の適応は極めて限定されます。高度のSRでは指交感神経切除術が適応になります。