血管外科医 笹嶋唯博 MD,PhD. Tadahiro Sasajima MD,PhD.

大切断から足を救う

糖尿病足、維持透析、膠原組織、バージャー病などによる足壊疽で多数の患者さんが膝下、膝上、あるいは股関節で下肢を切断されています。最近は糖尿病の世界的な増加により30秒に一本の足が切断されていると言われています。しかし実際には、医師の知識不足、治療経験不足、不適切な治療などにより無用な切断が実施されている現状が有り、本当に切断が不可壁で必要であった患者さんはそれほど多くはありません。膠原病は原疾患の治療が安定していれば難治性潰瘍や足部壊疽はバイパスや筋皮弁移植により救済できます。バージャー病は喫煙が病状の悪化と密接に関係しますので足を切断から救うには、禁煙すると言うあなたの重大な努力も必要です。

糖尿病・維持透析の足を切断
〜あなたが拒絶しない限り切断される

足の半分以上が壊疽になっていても踵がいきているならば救済することを考えます。すなわち化膿性足関節炎(足首の関節が化膿している)、踵骨や距骨(足関節を造っている骨)、脛骨(すねの骨)などの骨髄炎(骨の感染)がなければ、膝下や膝上の切断を免れる可能性があります。足の半分以上が壊疽になっている場合、医師は切断を奨めますので、そこであなたは拒絶する必要がある訳です。

大切断に至る過程

膝下や膝上の切断は現在世界中で行われています。その多くは、救肢できるのに切断されていますが、事情は、日本と欧米では若干の相違があります。日本では血管外科医の技術レベルが低いため難しいバイパス手術をする血管外科医が少ない一方、糖尿病内科医の多くはバイパス手術の有効性を理解せず、壊疽になったらいきなり整形外科を紹介します。整形外科医は切断を仕事とする医者ですので、紹介されたらそれ以外は考えません。患者さんが切断を拒否しない限り、同意が得られているものとして、整形外科医は、切断に向けて準備をし、切断を完了します。患者さんは、内科医の言われるままに整形外科を受診し、あれよあれよという間に切断されてしまうわけです。あなたが切断を拒否するのとは最も簡単ですし、あなたが拒絶しない限り切断されます。

欧米と日本の違い

医師の報酬は、日本では病院が支給し、医師の手術数や稼ぎ高とは関係がありません。忙しく働く医師も、夜中や土日に呼ばれる医師も休める医師もすべて給料は同じです。これが日本ですが、欧米の場合、外科医の報酬は保険から手術1例当たり15万円位支払われます。これは切断とバイパス手術で大きな相違がないため、時間のかかるバイパス術より1時間以内に終わる切断術をたくさん行う方が医師の収入は多くなります。そのためバイパスでも長時間手術は少なく、3時間以内の手術が多くなります。簡単な手術を選択し、実施される傾向にあります。日本は簡単な短時間に終わる手術でも困難な長時間手術でも外科医個人の収入は同じです。そのため日本では長時間に及ぶ手術も積極的に実施され患者さんのためになる手術が積極的に実施されていますが、欧米では簡単な手術が好んで実施され、例えば足壊疽に対するバイパス手術では透析患者さんの手術は極端に少ない訳です。

どんな時切断が必要か

切断をせざるを得ない場合はあります。足が壊疽になり、その範囲が足首を越えた時は、踵を救えませんので、切断となります。壊疽が感染して、感染が足首を越えた時も、バイパスができず、感染も抑制できないことが多いので膝下切断になります。

血行障害があるとなぜ膝上か膝下で切断するのか?

壊疽(図50)や何週間もあるいは数か月も治らない潰瘍(図51 a)は、その部分だけ切断してしまえば足趾が多少短くなっても早くよくなるように思われがちです。しかし血行障害のある足で、切除手術や趾の小切断などを加えた場合、その傷は治らず、1〜2週後には開いてしまい、さらに大きな傷ができます(図51 b)。さらに上で切ってもまた開きます。
結局、切断のみで壊疽や潰瘍を治そうとすれば膝下か膝上で切断するしかありません(図52 a,b)。膝下や膝上の切断を大切断といいます。大切断は通常は整形外科に委ねられますが、整形外科ではできるだけ一回の手術で切断端を直そうとするため十分血行の良いところまで切断の位置を高位にとります。太ももの動脈(大腿動脈)にも病変がある(閉まっている)場合は膝上切断を奨められます。大切断でも膝下と膝上では義足歩行の可能性や日常生活上の障害の程度に雲泥の差があります。本当に大切断がやむを得ない処置であるとすれば、何としても膝下切断になるように医師は努力すべきです。

切断術は血管移植手術より安全か?

手術時間はバイパスに比べやや短くても、この大切断も一回の手術です。全身麻酔をかけ手術をするので、手術危険率は同じです。飛行機と同じで、飛行距離が短いからと言っても離陸と着陸過程は一回ずつ必ずあるので、墜落の危険性は長距離飛行とあまりかわりがないのと似ています。実際、大切断手術がもとで1か月以内に亡くなる率は20%といわれています。

切断して義足で歩けるようになるだろうか?

老人の膝上切断では義足をつけて歩くことは不可能です。一方、膝下切断では歩く意欲がある患者さんでは義足による歩行訓練(リハビリテーション)を行い、歩けるようになります(図52 c)。これは若い人で3~4か月、70才以上では6か月はかかります。それでも歩けるようになればよいのですが、予定どおりにリハビリが進まないことが起きてきます。
切断しても、もともとの閉塞性動脈硬化症という病気が治る訳では,動かないことにより全身の動脈硬化は進行します。足では動脈硬化病変が対称性に両側にあることが多いため(図52 d)、6か月もしない間に反対の足にも同じような虚血性潰瘍や壊疽ができてきます。結局は義足で歩けるようになる前に両足大切断の危機が訪れます。両足を切断した老人(70才以上)は最早、自力で歩行することはできません。
今ひとつの問題は、切断した足の切断端には血行障害がありますので、義足による圧迫がもとで新たな潰瘍をつくってきます。切断端に潰瘍ができますと、結局、その潰瘍が痛くて義足が使えなくなります。数週間かって断端の潰瘍が治ったとしても義足をつけて体重が加わればまたできますので、結局、義足をつけられずに車いすか寝たきりになります。

大切断すると長生きできない

切断により足は使わなくなれば全身の血液の流れが少なくなります。全身の活動性が低下すると、切断した足はもとより、残された足も、脳も心臓も血流が少なくなります。こうなると動脈硬化がさらに進行し、しかも動脈硬化の血管内面は粥腫(豆腐の“おから“のような脂肪の屑)が顔を出して血の塊(血栓といいます)が沈着し易くなっており(図53)、血流の減少により、ある時突然、広い範囲に血栓をつくって広い範囲の動脈を閉まらせます。こうなると急性血栓症といって多くは命を失うことになります(図54)。 デンマークにおける大切断を受けた2880人の調査では4年後に25%が亡くなり、40%が反対足の切断あるいは切断した側のさらに高位の再切断を受けており、一回の切断だけで4年間を過ごせた人は36%に過ぎなかったと報告されています。別の報告では、下腿切断を受けた患者さんが2年後には、15%の人が反対の足の切断を受け、さらに15%は膝上の再切断となっていますが、問題はさらに30%の人が亡くなっているということです。これは進行大腸癌の死亡率を上回っています。
これらのことは、「片足にできた小さな潰瘍・壊疽でも切断しないでそれをしっかり治さなければやがては両足を失い、さらには命を失う」と言うことを意味しており、「切断されたら長生きはできない」ということを肝に銘じる必要があります。下肢大切断は血行障害のある足に対する治療ではありません。バイパス手術を受けるべきです。

バイパス手術(血管移植術)が不可能な例はありません

バイパス手術は生きている血行障害の組織、足、趾を救済します(図55a,b,c,d)。広範壊疽で、足の半分以上が壊疽になっていても踵が死んでいなければそこまで救済できますので、義足なしで自力歩行が可能です。同じ一回の手術ならば元通りに歩けるようになる治療を選択すべきです。バイパス術は無論、既に壊疽に陥って黒くなった組織は助けられませんし、広範囲の壊疽では、壊疽を除いた部分を閉鎖する2~3回の手術も必要です。傷がふさがって靴が履けるようになるまでは2〜6か月を要しますが、足が治って両足で立った時、その苦労の甲斐を実感することができるでしょう。

手術前の準備は?

下肢に閉塞性動脈硬化症(粥状硬化症による動脈閉塞症)があると、およそ50%の患者さんで心臓の動脈(冠動脈という太さ2〜3mmの血管が心臓を栄養する)にも同様の閉塞病変が発生し、狭心症や心筋梗塞の原因となります。また脳の動脈には25%の人で病変を発生し、脳梗塞を発生します。これらはいずれも急死の原因となりますので、足の動脈の手術が必要となったら頭の内、外の動脈狭窄の検査、心臓の冠動脈に狭い病変が隠れていないかどうかなどを調べます。足が腐り初めて急速に悪化している場合は、足が手遅れになるのでこれらを省く場合もあります。当然、心臓や脳に動脈狭窄病変が隠れている可能性があり(図29, 図30 a,b,c)、手術の危険性は増しますが、前述のとおり足の救済が不可能になったらもっと悲惨な状況が待ち受けていることを理解する必要があります。

血行障害を改善させる治療:バイパス手術とは?

血行障害により潰瘍や壊疽がある場合は、切断を免れるためバイパス手術が必要です。バイパス術は下肢内側の皮下を長く走っている静脈を取り出して、足関節周囲の動脈までにおよぶ長い血管移植をする必要があります(閉塞性動脈硬化症の項参照、図15 c, 図28 d)。糖尿病足壊疽に対し膝までのバイパスでは、通常効果が無く、一旦よくなっても2〜3年で再発し、バイパスは役立たなくなります(図31)。膝から下の動脈バイパスに人工血管を用いた場合は、すぐつまって役立たなくなりますので決して使用しないのが国際的な原則です(この領域の人工血管の5年開存率は平均15%です)。バイパス術が成功すれば壊疽足は劇的によくなります。通常、潰瘍はバイパス術のみで自然によくなりますが、壊疽足に対しては、初回にバイパス術、二回目に壊疽部分切除術の2回の手術が必要です(図28 e,f)。足壊疽が急速に進行して大切断になりそうな場合には、心臓と足の手術を同時におこないます(図32)。

手術の効果は?

糖尿病性閉塞性動脈硬化症250人にこのようなバイパス術を行い、移植した血管の5年開存率は85%です。糖尿病の無い閉塞性動脈硬化症に対するバイパスに比べて少し結果がよくありませんが、これは、糖尿病のある患者さんでは、動脈硬化が進行しやすく、それに対する追加手術が行われることによります。血糖のコントロールが悪い人や運動療法をしない方に起こりやすいことは明らかですので、その意味でも適切なバイパス術を受けて下肢の運動機能をより早く、健康にして、快適な日常生活を取り戻すことが大切です。