血管外科医 笹嶋唯博 MD,PhD. Tadahiro Sasajima MD,PhD.

糖尿病・維持透析例の足壊疽:下肢切断回避

概 説

糖尿病が原因で腎臓の働きが悪くなり(糖尿病性腎症)、維持透析になる方の数は毎年1万人以上で、これは糸球体腎炎という病気を追い越して第一位になりました。今後、糖尿病は増え続けますので維持透析例の壊疽も増え続けます。維持透析の方は10数年前に比べ格段に長生きされるようになり、日常生活を楽しまれる一方、社会的に活躍されている方が少なくありません。それに呼応して生活の質(QOL)を向上させるための治療法の工夫が色々考えられてきています。維持透析の方は、心臓血管病が大変多く、その治療には非透析例に比べ、大きな困難を伴います。それでも、あらゆる領域において治療の質も成績も徐々に向上しています。手術では、その技術と術前、術後管理の飛躍的な向上から非透析例と代わらない治療が実施されるようになっています。
透析例の足壊疽では一昔前(1990年代)まで切断が当然のように行われていましたし、欧米では現在も大切断が第1の治療となっています。我が国では心臓の治療が積極的に行われるようになり、寿命が伸び、患者さん自身が切断を拒絶するようになりました。外科医には、大切断・義足の代わりに血管移植により自力歩行を可能にさせることが求められており、我々は様々な治療法を駆使してその実現に努力しています。

大切断の宣告

2000年の初めまでは、維持透析の患者さんの場合、足に壊疽が形成されると、(糖尿病)内科から整形外科に紹介されて、当然のように直ちに切断されていました。しかし切断して喜ぶ患者さんはいませんし、体が楽になるわけでもなければ、歩けるようになるわけでもありません。まずは足を助けるための治療が徹底して行われるべきですが、大切断を宣告された患者さんのほとんどは、医学的に十分な検査も診断もなされず、切断されています。
大切断(膝上や膝下切断)の理由として担当医は次のような理由を説明すると思います。

全身状態が悪いので血管移植手術はできない
本当は、下肢切断は移植手術よりも安全と考えがちですが、切断手術の死亡率は20%にも達し、これは血管移植手術の死亡率1~5%よりも遙かに危険です。また切断後は2年以内に30%の方が亡くなります。最近は、この理由によりカテーテル治療が実施されていますが、安易に受け入れるべきではありません。(これから治療を受けられる患者様へ:カテーテル治療の問題点を参照)
血管がぼろぼろ、石になっているので移植手術はできない
本当は、これはその病院ではできないということです。血管外科医の技術と経験の差により成否が分かれます。修練した血管外科医ならば技術的に不可能な例はありません。(上記と同様、カテーテル治療を奨める医者に注意)
血管造影で血管が写らないので、流れる血管がなくなっている
本当は、血管造影の技術的な問題です。血管造影は方法、技術、撮影のタイミング、造影剤の量などで血管があっても写らない訳で本当に血管がない例は重症虚血肢の5%程度です。その場合には救肢のため特殊なバイパス手術を行います。

以上の点を知らない医師が切断を奨めます。これはとんでもないことですが、患者さん自身が拒否しなければ大切断されてしまいます。維持透析の有無にかかわらず、大切断は治療をあきらめた最後の処置で、治療とは言えません。

足を助けられる壊疽の範囲

壊疽が全趾に止まる範囲まで、あるいは足先1/3の範囲の壊疽までなら、生き残っている部分が適切に治療されれば踵を含む足底が残されますので、治療後は義足なしで再び歩けるようになります。例えば図34-b,cは、通常、バイパス不能として手術が行われない例ですが、バイパス手術を施行した後の血管造影像です。バイパス後は、切断に瀕していた足肢が救済され、日常生活に復帰されています。このようにバイパスが不能という例は極めて稀です。

大切断を回避できない例

足を助けるといっても壊疽のおよんでいる範囲により限界があります。足壊疽が広範な例(図35-a)、感染により足関節の骨や脛骨(下腿の骨)に骨髄炎を個々している例(図35-b)、足関節を超え脱臼を起こしている例(図35-c)などは手遅れの例で、膝下あるいは膝上の切断を要します。
踵の骨(踵骨)と距骨は足関節を形成している骨ですが、骨髄炎になるとウエファースのように軟らかくなって、体重を支えられなくなります。また骨髄炎がさらに上がって、化膿性関節炎や脛骨骨髄炎にまで波及する心配があり、この場合は膝下切断が必要です。これらは特に透析患者さんに起こります。
血行障害だけで、感染がない場合には、維持透析にかかわらず壊疽に陥っている部分が踵に及んでいないかぎり、踵を切断から救うことが可能で、手術をすれば小さな装具あるいは義足なしでも歩くことができます。

治療の困難性

糖尿病さらには維持透析例では全身の動脈が石灰化します。即ち石が動脈の壁にできてきて石管のように硬くなります(図33-a)。このような血管を持つのは透析導入後数年かかりますが、糖尿病では、それだけで石灰化し易く、透析導入時点で既に高度に石灰化していることが少なくありません。石になった動脈に対する血管移植手術は、動脈を遮断できないので風船付カテーテルを使って血流を遮断しますが、ある程度は出血させたまま縫い合わせざるを得ませんし、石に針が通らずいろいろな工夫を要しますので、時間がかかります。いろいろな困難はありますが、前述のQOLを高めるために石の血管につなぐ困難な手術が行われます。
血管移植手術は困難でも必ず実施できます。糖尿病維持透析例で最も問題になるのは壊疽の感染です。血管移植手術が成功しても潜在する骨髄炎により膝下や膝上で切断となる場合が5%位ありますので、血行障害が改善したからといって安心はできません。血管移植手術は足壊疽の全治療過程(救肢を達成するまで)の1/3に過ぎないことも理解しておく必要があります。

大動脈〜太ももまでの太い動脈が閉塞している場合

大動脈や腸骨動脈(臍から鼠径部までの動脈)が閉塞して潰瘍ができたり、歩くと足が痛くなったりした場合の手術は通常の大動脈-大腿動脈バイパスという標準的な手術方法がとれないため、脇の下の動脈(腋窩動脈)から大腿動脈へのバイパス術をします(図33-b)。透析例では大動脈が石になって人工血管をつなぎ合わせるのが困難なため大動脈が閉塞していなくても腋窩-大腿動脈が行われます。しかしこの手術では図のように体の右側に太い人工血管が浮き出ていて、患者さんの日常生活を障害し、また長期的な耐久性にも問題があります。さらに図33-cは骨盤内へ流れる動脈(内腸骨動脈)が狭くなっていることを示しますが、この状態はフルニエ症候群といわれるペニスが腐ってくる病気を発生し易くし、腋窩-大腿動脈バイパスではその予防はできません。そのため図33-bの手術方法をやめて石になった大動脈に人工血管をつなぐ方法を行い、さらに内腸骨動脈へもバイパスを加える手術を行うことがあります。図34-aは石になった大動脈から大腿動脈へのバイパスで、大動脈の石はドリルで穴を開けて人工血管をつなぎます。太ももの付け根の動脈も石になり人工血管をつなぐのが難しくなります。それでもこの方法により、活動性の高い透析患者さんでは重大な合併症が回避され、快適な日常生活が獲得できます。

下腿から足の動脈にも石ができてきます(図34-a)

足関節周囲の動脈は細いのでバイパス手術で血管をつなぎ合わせるのが一層難しくなります。図34-b,cは足首の付近へのバイパス手術で、石になった太さ1mm前後の細い動脈に血管を移植します。今や維持透析の方でも透析で内方の手術と同じ方法を採用するように工夫と努力がなされています。

バイパス手術後の管理

維持透析例の問題は、バイパス手術が容易でないことに加えて、糖尿病性腎症から維持透析になった例ではバイパス後も微小循環障害が悪影響して壊疽切除創の治りを遅らせます。血管移植後も壊疽がなお進行する場合があり、治療は容易ではありません。そのため治療期間が非糖尿病非透析例の3倍以上かかり、広範囲の壊疽では完全に治るまで数か月から1年を要する例がめずらしくありません。それでもやがては必ず治癒に向かいます。壊疽切除創にきれいな肉芽が形成されてきたら、最後に壊疽切除部の形成手術を行います。表面の皮膚の欠損は植皮をしますが、骨が露出している場合には遊離筋皮弁移植を行い開放創を閉鎖します。
足を助けるためには以上の問題点を十分ご理解頂いて手術を受ける必要があります。それでもおよそ80%の患者さんは順調に経過します。治るのが遅れていろいろな処置の追加が必要な困難例は17%で、最終的にはほとんどの例で足救済が達成されます。

手術の危険性

透析患者さんの手術の危険性は心臓の手術も、足の手術でも、手術に関連して手術後30日以内に亡くなる危険率は世界平均では10%です。これは脳動脈の動脈硬化により同じような狭い病変がほぼ90%に方にみられることと心筋梗塞の原因である心臓の血管病変が高率(50%以上)にあること、これが元で心臓の働きが悪くなっていること(低心機能)などによるものです。切断も血管移植も一回の手術ですので、危険性は変わりません。切断では歩けるようにはなりませんし、切断後の生命予後は不良で、2年で25%の方が亡くなっています。同じ危険をおかすなら、耐久性があり希望の持てる治療を選択すべきです。