下肢の血行障害を発生する病気

  • 閉塞性動脈硬化症(ASO)
  • 糖尿病足壊疽
  • 下肢救済手術の手順
  • 治療効果

閉塞性動脈硬化症(ASO)

病気の概要

心臓から送り出された血液を色々な臓器に送り込む管が動脈です。動脈は栄養や酸素を全身の臓器、組織に供給していますが、50年も経ちますと、すなわち誰でも50才を過ぎるとこの動脈にも変化が起こってきて硬くもろくなってきます。これが動脈硬化です。
動脈硬化は病理学的に3つの型に分けられています。もっとも普通に見られるのが粥状硬化といわれる動脈硬化です。
これは動脈の内層にコレステロールという脂肪を堆積して内腔を狭くし血液の流れを悪くし(血行障害)、さらに堆積したコレステロールは、内側に露出し血液の固まりをつくり一層流れを悪くします。こうして血行障害により脳、心臓、腎臓などの臓器や下肢の皮膚、筋肉などの組織は血液不足(虚血)となり、いろいろな症状・病気を引き起こします。
この粥状硬化は全身の動脈に起こりますが特に強く起こる部位があります。それを好発部位といい、頸動脈〜脳動脈、心臓の冠動脈、そして足の動脈です。頸から脳にかけての動脈硬化は脳卒中の原因になりますし、心臓を栄養する冠動脈という血管が狭くなると狭心症や心筋梗塞を起こします。
足の動脈硬化は、足に痛みがでてきて、放っておくと腐ってきて切断になります。これを閉塞性動脈硬化症といい、50才以上の男性に多く(90%)、”おへそ”から下の足へ流れる動脈が動脈硬化(粥状硬化)により脂肪が血管の壁にたまって内腔が狭くなり、ついには閉塞(つまること)して、足に血液が流れなくなる病気です。
下肢の閉塞性動脈硬化症の患者さんの半分は心臓の冠動脈にも病気を持っており、また4人に一人は脳動脈にも狭いところがあります。
足の動脈は臍から足先まで大変長く、しかも左右2本ありますので動脈硬化に陥る範囲が広いため、狭いところが何箇所もでてくる厄介な病気です。
足の動脈にも閉塞する好発部位があり、片足につき3カ所あります。
お腹の大動脈は”おへそ”の高さで左右に分かれ、鼠径部(太腿の付け根)までを腸骨動脈といいます。太腿の動脈を大腿動脈、膝下から足首までの動脈を下腿動脈(2本の脛骨動脈と腓骨動脈の合計3本があります)といいます。
閉塞の起こりやすい部位は腸骨動脈、浅大腿動脈、下腿動脈で、各々、骨盤型閉塞、大腿型閉塞、下腿型閉塞(図1-a, b, c)といいます。半分の患者さんは両足に病気が発生しますので、好発部位は合計、左右6カ所あります。

診 断

もう少し病気が進むと最初の症状は、300~500mくらい歩くと“ふくらはぎ”が痛くなり、立ち止まって休むとまた歩け、それを繰り返します。これを動脈性”間欠性跛行”(フォンテイン2度)といいます。この症状は脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなどの腰の神経障害でも起こりますので(神経性間欠性跛行)、動脈閉塞によるかどうか、動脈性と神経性が合わさっていないかどうかなどを診断することが大切で、神経性の場合には腰椎症専門の整形外科医の診察を受ける必要があります。動脈性では、足が痛くなって立ち止まって休むだけで回復してきますが、神経性では歩き始めから具合が悪く、立ったままで休んでも回復しません。階段の登りは動脈性では極めて困難ですが、神経性では登りに問題がなく、むしろ下りに困難を覚えます。また通常、腰痛や足のしびれ感を伴います。さらに動脈閉塞症が悪化すると次第に歩く距離が短くなってきます。動脈性の間欠性跛行では足に小さな傷をつくりますと(図2)、その傷が広がって潰瘍・壊疽となりなかなか治りません(図3-a, b, c)。さらに動脈閉塞が進んで、血行障害が悪化すると、足が痛くて眠れなくなります。これは安静時疼痛という症状でフォンテイン3度といい、足が腐り始める前兆です。ついには足趾(図4-a, b)やくるぶしの外側(図4-c)、下腿の皮膚(図4-d)などが腐ってきます。これを壊疽といい、フォンテイン4度です。足趾(図5-a)、足背(図 5-b, c)、足首より上(図5-d)へと壊疽が進んできます。以上の様な重症な壊疽でも適切に治療すれば図5-d以外は足を助けることができ、自力で歩くことができるようになります。図2〜図5-cまでの段階では安易に切断を決意すべきではありません。 病状を診断するには足首で血圧を測定し(図6)、上肢で測定した血圧と比べどのくらい低下しているかを比較して表します。動脈閉塞が原因の場合は、足首で計った血圧が腕の血圧に比べて7割以下になると間欠性跛行がでてきます。足首の血圧が手の血圧の半分以下しかない場合には寿命も短くなり、また“ぼけ”(うつ症状)も発生します。健康時のようにふつうに歩いたり走ったりできるようになるためには早く手術を受けることをお奨めします。図7の方は間欠性跛行で手術を受けましたが、術後3年目に念願のヒマラヤ登山を達成されています。

治 療

フォンテイン1度は、治療の必要はありませんが、薬(抗血小板薬と脂質改善薬)を飲んで動脈硬化の進行を抑える必要があります。フォンテイン2度は、まず血管拡張作用と抗血小板作用を併せ持つ薬剤を飲んで効果をみます。どういう薬を飲むのがよいかは血管外科専門医にご相談ください。これでより長距離歩けるようになったらそのまま薬を継続します。6か月から1年経過をみてその歩行距離で日常生活に支障が無ければそのまま薬を続けるのがよいでしょう。もし不満ならば手術が必要です。手術方法は次項に示します。フォンテイン3〜4度は、放っておくと膝下または上で切断することになりますので、大切断を免れるためには血管移植手術が必須です。移植手術はどの様な患者さんでも可能ですが、切断を奨める医師(整形外科医)は技術的にあるいは患者さんの心臓の働きや全身状態が不良なため血管移植(バイパス手術)は不可能であると説明しますので注意してください。バイパスが不可能ということは決してありません。

手術方法

通常好んで行われる手術は閉塞部位を迂回して血管を移植するバイパス術です。バイパスに用いる管を代用血管といい、それには人工血管というポリエステルやテフロンなどのプラスチックでできた布製の管(図8-a)と患者さん自身の体の中で取り除いても支障の起こらない血管を代用血管として用いる自家代用血管があります。8mm以上の太い動脈がつまる骨盤型閉塞では専ら人工血管でバイパス術が行われ、お腹を図8-bの様に切開し、図8-c,d,eの様に人工血管を埋め込みます。人工血管の治療結果はきわめて良好です。大腿型閉塞でも膝の上までのバイパスには人工血管が使用できます。一方、膝下から足首以下の動脈は太さが1〜3mm位しかありませんので、手術も難しくなり、人工血管のバイパスではすぐに再閉塞して、症状が再発します。そのためこの領域の細い動脈へのバイパス術では足の内側を走る太さ3~5mmの大伏在静脈という静脈(図9-a)を動脈に移植する方法が用いられます(図9-b)。治療成績は施設により差がありますが、自家静脈によるバイパスは5年間は90%で異常を起こしませんし、10年間は耐久性を保証できます。

手術成功率
98〜100%
移植血管がいつまでもつか?(長期開存率)
5年後で90%、10年後で85%
手術死亡率(手術が原因で1月以内に亡くなる方)
1〜2%(平均1%以下)

緊急手術では心臓病(狭心症が隠れている場合)や頭蓋内動脈狭窄、動脈瘤がある場合、肺炎(喫煙者に多い)などにより亡くなる方もいますが、これらの点を手術前に十分調べて準備すれば1%以下です。糖尿病やそれによる腎障害のため人工血液透析を受けている方はさらに重症です(「糖尿病で維持透析例の足壊疽」参照)。透析患者さんの場合は2~3%位の手術死亡率です。 バイパス手術を受けた後は劇的に症状が改善します。間欠性跛行は完全に治り、健康な時と同じに色々な運動ができるようになります。また足にできた潰瘍はきれいに治ります。広範囲の潰瘍でも植皮を併用すれば3週間で治ります(図10-a:術前、b:術後、図11-a:術前、b:バイパス術後良好な肉芽の形成、c:植皮術後、図12-a:術前、b:バイパスと植皮による治癒後)。足の裏の潰瘍はふつうの植皮をしただけでは潰瘍を再発するのでやはり特殊な組織移植術を併用します(図13-a:踵の潰瘍の術前, b:バイパスと土踏まずの皮膚の移行術後)。また骨が露出している例(図14-a, b)や通常の方法では踵を失う可能性がある例ではお腹や背中の筋皮弁を用いて微小血管縫合を併用して遊離筋皮弁移植術により治癒させることができ、踵を残すようにします(図15-a:術前、b:バイパス術と筋皮弁移植術後、c:術後2年目の完治、図16-a:踵の壊疽、b:バイパス術後に背中の筋肉移植+植皮術により治癒、図17-a:足部の広範囲の壊疽、b:踵を残すためバイパスとお腹の筋皮弁を移植、c:治癒1年後)。この様な方法をバイパス術と併用することにより壊疽に陥った部分以外はすべて助かり、腐りかけた足の切断を回避する唯一の方法です。

手術の治療期間

術前検査から治療までのスケジュールは以下のようになります。

術前検査 手術1 or 2日前に入院
下肢動脈造影、冠動脈造影、心臓エコー検査
手術と治療期間 心臓に
異常なし
足趾小潰瘍・壊疽 術後2週間以内
広範足壊疽 術後6週間〜6ヶ月間
バイパス→足部形成術(2〜3回の手術が必要)
心臓に
異常あり
心臓動脈カテーテル治療(PC1)または心臓のバイパス術
2〜4週間後下肢動脈バイパス術
または
下肢動脈バイパス術
2〜4週間後心臓動脈カテーテル治療(PC1)
心臓のバイパス術+下肢動脈バイパス術(一回で同時に手術
術前検査
手術1 or 2日前に入院
下肢動脈造影、冠動脈造影、心臓エコー検査
手術と治療期間
心臓に異常なし
足趾小潰瘍・壊疽 術後2週間以内
広範足壊疽 術後6週間〜6ヶ月間
バイパス→足部形成術(2〜3回の手術が必要)
心臓に異常あり
心臓動脈カテーテル治療(PC1)または心臓のバイパス術
2〜4週間後下肢動脈バイパス術
または
下肢動脈バイパス術
2〜4週間後心臓動脈カテーテル治療(PC1)
心臓のバイパス術+下肢動脈バイパス術(一回で同時に手術

バイパス術後の下肢や移植血管の運命は?

大動脈の人工血管は前述のように10年で90%は大丈夫ですが、人工血管の劣化や吻合部(つなぎ目)の動脈瘤により10%で再手術が必要です。これの成功率は100%です。一方、膝から下の静脈グラフトでは移植後10年以降にグラフト自体の動脈硬化を発生しつまってしまいます(図18)。静脈グラフトは10〜20年が寿命ですので、その時点で再手術が必要です(図19-a, b, c, d, e, f:図をクリックして解説を参照してください)。このグラフト自体の動脈硬化を予防するため色々な薬(スタチン薬や抗血小板薬)を飲んでいただきます。

糖尿病足壊疽

病気の概要

糖尿病で下肢の動脈閉塞を起こしてくる例を、糖尿病性閉塞性動脈硬化症といい、糖尿病が無い場合の閉塞性動脈硬化症とは色々な点で相違があり、重症です。糖尿病性閉塞性動脈硬化症は、血行障害と感染による壊疽が急速に進むため手遅れになって下肢の切断に至る可能性が高くなります。糖尿病性閉塞性動脈硬化症はなぜ重症かというと次のような3つの大きな原因があるからです。

  1. 下腿動脈(膝から下の動脈)の多発分節性狭窄、閉塞(図1-c, 図25)
  2. 下腿動脈—足部動脈の石灰化(血管にカルシウムがたまって“石”になります)による血行障害(図26)
  3. 毛細血管の血行障害(神経障害による血管反射の障害による)(図27)
  4. 糖尿病足は感染し易い(バイ菌に対する抵抗力がない)

これら1~3が合わさるため血行障害は重症で、足が壊疽を起こしやすい病態を持っています。(図28-a:初診時, b:6日後)さらに4として、バイ菌が侵入して感染しやすく、バイ菌の毒素によっても壊疽が発生します。
糖尿病足壊疽では、虚血と感染の両方で壊疽が進行します。血行障害がなくとも感染だけで壊疽が進行しますが、また血行障害が極めて軽度でも感染が加われば壊疽はどんどん進行します。つまり壊疽は血行障害と感染のかけ算で重症化します。そのため治療方針の決定は大変難しく、適切な治療が行われないとすぐ手遅れになって膝下や膝上での切断が必要になります。

診 断

糖尿病がある方で足趾が腐ったり(壊疽)、潰瘍ができて1か月以上も治らない方は、専門的な診察が必要です。まず感染の有無(菌の種類)、血行障害 の有無を診断します。感染診断は菌の種類を特定することが重要で、血行障害の診断では皮膚潅流圧という検査と動脈造影検査が必要です。足の血圧測定で低ければ動脈が閉塞していますが、糖尿病では軽度の低下でも安心はできません。また逆に高すぎるのは動脈が石の管になっているためで血圧が本当に高いわけではありません。このような場合は動脈造影検査が必要な訳です。動脈造影により下腿動脈の多発分節性狭窄病変(図1-c, 図25,図28-c)があれば診断がつきます。壊疽はなくとも間欠性跛行のある場合もやはり造影検査が必要です。

治療を始める前の全身検査

足の壊疽は下肢の動脈硬化が原因ですので、下肢以外の動脈にも同様の病変が発生します。脳血管と心臓の血管(冠動脈)は好発部位で、足壊疽の患者さんでは特に50%以上の患者さんで冠動脈に病変を隠し持っていますし、25%の患者さんは脳血管に狭いところがあります。そのため足の治療ばかり考えていると心筋梗塞や脳梗塞で急死することがありえます。そのため足の手術の前には少なくともすぐ治療が可能な心臓の検査が必須なわけです。足壊疽で救済治療を始める前には、脳の動脈や首の動脈(頸動脈)の検査、心臓に狭心症が隠れていないかどうかなどを調べます。足が腐り初めて急速に悪化している場合は、手遅れになるのでこれらの術前検査を省く場合もありますが、心臓や脳に動脈狭窄病変が隠れている場合があり(図29, 図30-a:頸動脈狭窄, b:それに対する形成手術, c:脳動脈の狭窄病変)、手術の危険性は増します。心臓の血管病変が危険な状態の場合は心臓のカテーテル治療を先に行います。

治療の原則

潰瘍や壊疽がある場合は、切断を免れるためバイパス手術が必要です。バイパス術は下肢内側の皮下を長く走っている静脈(大伏在静脈)を取り出して、大腿動脈から足の裏や足の甲の動脈におよぶ長いバイパス血管移植をする必要があります(閉塞性動脈硬化症の項参照、図9-c, 図28-d)。これよりも短く、膝までのバイパスでは、効果が無く、一旦よくなっても2〜3年で再発し、バイパスは役立たなくなります(図31:膝下までのバイパス(→)の後、3年でふくらはぎの血管が閉塞し足壊疽発生)。このバイパスに人工血管を用いた場合は、すぐにつまって役立たなくなりますので使用しないのが原則です(この領域の人工血管の5年開存率は平均15%しかなく、極めて不良です)。バイパス術が成功すれば壊疽足は劇的によくなります。通常、潰瘍はバイパス術のみで自然によくなりますが、壊疽足に対しては、バイパス術と同時に壊疽切除術を行い、範囲が広い場合には2回目の手術として、皮膚移植が必要です(図28-e, f)。足が腐っていて急いでバイパスをしなければ大切断になりそうな場合で、心臓にも冠動脈狭窄病変がある場合には、心臓と足のバイパス手術を同時に行うことがあります(図32)。

足壊疽に対する下肢救済手術の手順

糖尿病性壊疽に対する下肢救済治療は3段階の手順を踏む必要があります:1)バイパス術と壊疽切除、2)バイパス術後、壊疽切除断端の浄化、感染抑制、デブリドマン(死んだ組織の切除)などによる創治療、3)浄化された創に対する遊離植皮や遊離筋皮弁による断端閉鎖(形成)が必要です。

第1段階:バイパスと壊疽切除

下肢動脈血行再建はバイパス術が標準手術で、骨盤型ではポリエステル(ダクロン®)人工血管による大動脈−大腿動脈バイパス、大腿・下腿型では、自家大伏在静脈を第一選択代用血管として大腿または膝窩動脈ー末梢動脈バイパスが行われます。足関節より中枢へ感染や壊疽が進展していない限りバイパスする動脈が見当たらないということはなく、バイパス不可能例は基本的に存在しません。糖尿病では多くの場合、足関節以下の足背または足底動脈バイパスが必要となり(図9-c, 図19-b,e, 図28-d)、バイパスに用いる静脈(グラフト)長が不足な場合には小伏在静脈(ふくらはぎの後面を縦に走る静脈)や上肢(腕)静脈も連結して使用します。バイパスが完了したら、壊死に陥った足趾は切断が必要となりますが、この時点では可逆的組織(生きている組織)はすべて残します。

第2段階:バイパス後壊疽切除創の管理

バイパス術後は足肢が急速に浮腫(むくみ)を発生し、バイパス後は急速に下肢浮腫が増強し、感染が拡大し易くなります。それにより血管移植手術が成功したにもかかわらず蜂窩織炎や骨髄炎から切断に至る可能性があります。このような感染が実は切断に至る最大の原因となっています。壊疽足はほとんどの例でMRSAやセラチアなど強毒菌による感染を伴っているので頻繁に壊疽切除を繰り返し創洗浄、抗菌軟膏処置などを行い壊疽切除後の創浄化をはかり、蜂窩織炎と骨髄炎の防止に努めます。骨髄炎はMRI(核磁気共鳴診断法)による早期診断が必須で(図33)、足根骨骨髄炎が明らかな場合は透析例ならば躊躇することなく感染骨摘除を行います。ある程度感染が抑制されたなら持続陰圧吸引療法(vacuum assisted closure(VAC)、NPWT (negative pressure wound therapy:(図34-a)開放創をスポンジで覆い、吸引チューブを差し込んで接着フィルムで完全密閉し、120mmHgの陰圧で3−4日間吸引する方法)、を開始します。感染が抑制されて後、滲出液の多い創に有効で、肉芽形成を促進します(図34-b)。しかし維持透析例は肉芽形成が遅れ、非透析糖尿病例の2倍を要します(維持透析例の項参照)。良好な肉芽の形成が得られたら皮膚移植を行います。さらに壊疽が広範で骨が露出してそのままでは切断せざるを得ない状態の場合には遊離筋皮弁移植といって、背中やお腹の筋肉と皮膚を持ってきて創を覆う手術を行います。これにより通常では切断になる例でも、踵や足の半分を救済して義足なしで歩くことができる様になります。(次項参照)

第3段階:組織補填による足部断端形成

第1、2趾は歩行の踏み出し、5趾は起立時バランスの機能を担っているので(大切断から足を救う;図51-a, b参照)、可能が限り趾を救済します。血行再建後は広範潰瘍には遊離植皮により治療期間を短縮します(図11-a,b,c, 図12-a,b, 図13-a,b, 図28-e,f)。また踵の温存は重要で、組織補填、とりわけ筋皮弁を用いる壊死組織切断端の形成手術が併用され、これは全足壊疽例の6%に実施しています(図15-a,b,c, 図16-a,b, 図17-a,b,c)。

治療効果

糖尿病性閉塞性動脈硬化症100人にこのようなバイパス術を行い、移植した血管の5年開存率は85%です。糖尿病の無い閉塞性動脈硬化症に対するバイパス(92%)に比べて少し結果がよくありませんが、これは、糖尿病のある方では、動脈硬化が進行しやすく、それに対する追加手術が行われることによります。血糖のコントロールが悪い人や運動療法をしない方に起こりやすいことは明らかですので、その意味でも適切なバイパス術を受けて下肢の運動機能をより早く、健康にして、快適な日常生活を取り戻すことが大切です。