糖尿病足壊疽を中心に治療方針をまとめて示します(図1)。以下には潰瘍/壊疽の大きさによる治療法の実際を解説します(図2)。
小さい潰瘍・壊疽(趾1~2本の壊疽)の治療
小さい潰瘍・壊疽(図3)は血管移植手術により2週間で退院できます。壊疽は壊死の部分のみを切除し生きている組織は全て残します。下肢切断の可能性はなく、足部の切断も行いません。
退院後は潰瘍が自然に治るまで自宅でご自身(ご家族)で処置をします。痛みがなくなったら早々に歩行練習を行います。通常、糖尿病では 1~2ヶ月で完治しますが、透析患者さんでは2~3ヶ月を要します。
中等度~広範壊疽の足救済治療
中等度(図4a)から広範壊疽(図4b)では救済まで3段階の手術/治療が必要で、完治まで2〜6か月を要します。いずれも踵を救済することで義足なしで歩行ができます。長距離の歩行では専用の靴型装具の作成、着用が必要です。
3段階治療の方法
第1段階血行再建術
まずは血行障害を改善させるため血管移植手術(バイパス術)を行います。糖尿病足壊疽の血行障害は膝下の血管に病変がありますので足関節以下への血管移植手術が第一選択の治療法です。膝下の血管に対するカテーテル治療は再狭窄により壊疽を悪化させ、さらに足部血管へのカテーテル治療は血管移植手術を不可能にしますので決して行うべきではありません。糖尿病足壊疽では、通常、感染を伴うため、感染抑制のため早急に血管移植手術が必要です。図5, 6, 7に動脈閉塞病変の部位による種々のバイパス法を示します。
第2段階感染創の治療
血行障害に対しバイパス手術が完了したら、壊疽の進行は止まります。壊疽は早々に切除し、感染創に対する適切な局所治療が必須です(図8)。創洗浄、壊死組織の切除、抗菌軟膏治療が行われます。この治療が不 適切ならば感染が治まらず壊疽が進行します。そのため感染と血行障害の両方に専門的な知識と治療経験を持つ医師の治療が必要です。肉芽形成を促進するためスポンジを創に当てて陰圧吸引する治療(NCWT: Negative Pressure Wound Therapy)を行い肉芽形成を促進させます(図8c)。足趾骨髄炎は感染骨のみを切除または摘出します(図9)。
第3段階足部の形成術
壊疽を切除し、感染を抑制できたら、最後に足趾の形成が必要です。潰瘍・壊疽が再発することなく、少しでも快適に歩けるようにするため足趾をできるだけ大きく残す(助ける)治療が必要で す。大きい壊疽は2回目の手術として創をふ さぐために植皮や遊離筋皮弁移植術を行います。皮膚欠損がいくら広範囲でも表在性であれば植皮手術で閉創します(図10, 11)。遊離筋皮弁移植術は広範壊疽(図12)、断端骨露出(図13)、足底壊疽(図14)に対する下肢救済治療です。
足壊疽はどこまで救済可能で、どの様な例が大切断となるか
肌色の生きている部分が踵を含めて1/3以上残っていれば救済可能です(図15)。救済の条件として、1. 壊疽や感染(膿瘍)が足首を超えて拡がっていないこと(図16)、2. 足関節骨の骨髄炎(図17)や化膿性足関節炎がないこと(図18)、3. 重症な心臓の病気がないことなどがあります。下肢救済が達成されたら自力で歩きたいという意欲のあることが最も重要な患者さん側の要件です。
血管移植手術では、生きている組織を救済するわけで、黒変して既に死んだ組織は助かりません。そのため壊疽(紫色~黒変の部分)がどこまで拡がっているかにより救済の可否が決まります。下肢を救済する目的は当然ながら歩くためです。そのため歩く可能性のない患者さんは基本的には救済の対象にはなりません。脳梗塞や他の重大な疾患で寝たきりとなった患者さんは原則的には救済の対象にはなりませんが、自力で日常生活上何ができるかを考慮する必要があります。日常会話ができるか、座位を保持できるか、車イスへ移動できるか、自力で食事がとれるかなどは救済を検討すべき条件です。
血行障害のない糖尿病足壊疽の治療
糖尿病ではASOがなくても感染により大・小の潰瘍・壊疽を発生します(図19)。趾骨髄炎では趾切除/切断が必要です(図19 d,e)。細菌毒による感染壊疽は処置が不適切な場合には急速に拡大し、大切断の原因になります。切断を回避するには切開、排膿、壊死組織切除など感染創に対する基本的な外科処置が必要です(図20)。
足壊疽を来すその他の病気と治療方針
足壊疽により切断の危険性がある病気はASOが90%を占めますが、他にバージャ-氏病(2%)、膠原病随伴血管炎(3%)、shaggy aorta syndrome(4%)などがあり、ASOとは治療方針や治療法が異なりますので,まずは壊疽の原因となる病気の確定診断が極めて重要です。
足壊疽は、最近、急増を続ける糖尿病/維持透析例ばかりが注目されていますが、これら以外にも足壊疽を来すいろいろな病気があり 、治療方針は異なります。下肢血行障害よる壊疽は、同じようにみえても、病気の原因、虚血重症度、血管病変重症度などにより、治療方針や治療法が大きく異なってきます。内科的治療がよいか、血管拡張術(カテーテル治療)がよいか、血管移植手術が必須か、それらの併用療法か、あるいは血行再建を急ぐべきか、様子をみるべきかなど病因や病態によって治療効果が長期保証される適切な治療法の選択が重要です。病気により治療法が異なるので、疾患の特徴、病理・病態を包括的に理解した上で、適切な治療を行わなければならなりません。
以下はASO以外にしばしば経験される病気です。
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バージャー病(図21)(詳細はこちらのページ)
若年(20-40歳代)喫煙男性にみられる動脈閉塞症で、足趾壊疽により下肢切断となるため難病に指定されているが、禁煙さえ徹底すれば悪化することなく回復に向かう良性疾患。壊疽が大きい時、潰瘍の痛みが強い時、耐え難い間欠性跛行(一定の距離を歩くとふくらはぎや足の裏が痛くなる)が回復しない時などは血管移植手術(バイパス)が必要。バイパス術は特に専門的な技術と経験を要するが 、最も有効な第一選択の治療法である。カテーテル治療は本疾患の知識のない医師により行われているが、急性閉塞の危険性や長期の開存性に問題があるため行うべきでない。禁煙すれば大切断はあり得ない。
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膠原病随伴血管炎(悪性関節リュウマチ、SLE、強皮症などの血行障害)(図22)
足部の小動脈閉塞により足趾潰瘍・壊疽を発生する。ステロイド治療が必須で、動脈閉塞による難治性潰瘍・壊疽には血管移植手術(バイパス)が必要。カテーテル治療は病状を悪化させるので決して行うべきでない。
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膝窩動脈外膜嚢腫や膝窩動脈捕捉症候群などの動脈圧迫性疾患(図23)
下肢の血行障害で間欠性跛行を主症状とし、壊疽を発生することはない。動脈閉塞が発生する前に外膜嚢腫は早期切除、捕捉症候群は動脈変性がなければ圧迫腱の切離で治癒。既に狭窄・閉塞例は血管移植手術(バイパスか置換術)。
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心房細動、心筋梗塞後、大動脈瘤、末梢動脈瘤などに由来する血栓塞栓症
血栓摘除術で完治するが、塞栓発生部位(心臓や大動脈)の治療が必須。膝窩動脈瘤は発見されたら早期切除・血行再建。
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微小粥腫塞栓症(シャギーアオルタ shaggy aorta syndrome)(図24)
動脈の内面に形成蓄積された粥腫(コレステロールの塊)が大きくなって突然、破裂し、その中の微小な屑(“おから“のようなもの)が血流にのって足趾の小動脈をつまらせる病気。突然の疼痛で発症し、多くは1~2週間くらいで小趾か母趾側が壊疽になる。その後も激痛が続くが、生組織と壊疽部分の境界が明瞭になるまでは外科的治療(壊疽切除や趾切断)は行うべきでない。その間、鎮痛治療(鎮痛剤内服や神経ブロック)が必須で、3~6か月を要する。