足壊疽(ASO・糖尿病・血液透析)

糖尿病のある閉塞性動脈硬化症(ASO)とはどんな病気か?

糖尿病は動脈硬化症の主要な原因で膝下の細い動脈にASOが発生し、さらに神経障害による微小血管の血行障害、感染にかかりやすい、血管の石灰化(石の管になる)を来すなどのため壊疽の進行が速く、切断率が高い危険な病気。

ASOという病気は、糖尿病のない人にも起こりますが、それはたちのよいASOで、糖尿病のあるASOは糖尿病の無いASOに比べて大切断になる可能性が5~20倍と言われています。糖尿病にASOが加わると大小の足趾壊疽を発生しやすくなります(図1)。趾壊疽に留まる場合には、血管移植手術(バイパス)により容易に下肢救済ができます(図2)。しかし適切な治療が行われないまま経過すると潰瘍・壊疽は進行し(図3)、さらに感染が加わると小潰瘍でも急速に拡大、重症化して、切断の危険性がでてきます(図4)。壊疽が拡大して広範壊疽となった場合には下肢救済治療は長期間が必要になり、治療法も複雑になります。下肢救済の手術は血管移植手術だけでなく組織移植手術を行って壊疽で失われた組織欠損を修復する、いわゆる遊離筋皮弁移植による足形成手術が必要になって来ます(図5-1,2)。バイパス手術と遊離筋皮弁移植法を併用する方法は実施できる施設が限られますが、それを採用することにより足底の全欠損や骨が大きく露出して大切断せざるを得ない例(図6)や足底の広範組織欠損(図7a~f)などでも下肢救済が可能となります。広範な潰瘍・壊疽でも足背部や下腿など体重のかからない部位では遊離筋皮弁移植手術は必要なく、バイパス手術を行った後きれいな肉芽が形成された時点で皮膚移植を行って治癒させる事ができます(図8, 9)。

糖尿病+維持透析例の閉塞性動脈硬化症(ASO)とはどんな病気か?

糖尿病のASOは重症ですが(前述)、それに透析が加わると末梢循環障害や動脈石灰化が極めて高度になるため足壊疽はさらに難治性で救済の難しい病状を発生します。

糖尿病のASOが重病なことは前述のとおりですが、最も治療が難しいのは、糖尿病で維持透析を受けている方のASOです。動脈閉塞と石灰化が微小動脈にまでおよぶため(図10)、血行障害もさらに高度になり、加えて週3回の透析は血行障害を促進します。そのため感染と壊疽の進行が速く、下肢救済ではこれらの適確、迅速な診断が重要で(図11-1,2)、わずかな見落としが救済の機会を失しなわせる可能性があります。血管移植手術が上手く行われても、壊疽切除後の傷や感染創の治りが悪く、治療期間が長期に及びます。血行障害の再発は感染壊疽を急速に悪化させて、重要骨骨髄炎(図6)や化膿性足関節炎(図12)など切断必至の病状になる可能性があるため下肢救済が完全に達成されるまでは余談を許さない病状が続きます。血管移植術(バイパス術)は血行障害に対し最も有効な治療法ですが、移植した血管に異常を発生する頻度が高く、バイパスの修繕手術や再手術が必要になる例が少なくありません(25%)。とはいえ下肢救済のためにはまず血行障害を改善・維持することが不可欠でバイパス手術は、最も信頼できる治療法です。

下肢救済治療実績

旭川医科大学(2001-2013)と江戸川病院血管病センター開設後(2013-2019)の治療実績を提示します(図13,14,15)。
この結果で分かるように下肢切断は5年後でも10人に一人しか切断になっていませんし、透析でなければほとんど切断になることはありません。切断の主因は重要骨の骨髄炎(図6)や化膿性足関節炎(図12)で、バイパスに用いる血管(患者さん自身の静脈)が既にバイパスに使用されてなくなってしまった場合です。

江戸川病院血管病センター 旭川医科大学
糖尿病 73% 糖尿病 80%
透析例 (280) 非透析例 (169) 透析例 (242) 非透析例 (159)
下肢救済率 5年 99.4% 87% 99%
バイパス開存率 5年 82% 92%

バイパス術

下肢血行障害の症状には間欠性跛行と重症虚血があり、前者は膝から上の動脈閉塞症であり、後者は膝上~膝下動脈のいずれの閉塞においても発生し、その治療では、バイパス術が即効性、確実性、長期耐久性、およびどの様な例にも実施できる信頼性などの点から第一選択の治療法です。糖尿病足壊疽では主に“ふくらはぎ”から足部の細い動脈に閉塞病変が発生します(図16)。これに特有な末梢循環障害や石灰化(図17)および感染抵抗性から血行障害(虚血)と感染の相乗効果により壊疽が急速に進展、拡大することから、特に確実な血行再建術としてバイパス術が採用されるべきです。バイパスの実施に当たっては動脈閉塞症の確実な診断が必要で、直接動脈に薬剤を注入して病変を映し出すIADSAと言う方法がとられます(図18)。造影CTやMRAは低侵襲の検査ですが、糖尿病や透析例の血管では石灰化があるためバイパス手術を目的とする検査には無効です(図19) 。糖尿病/維持透析例の動脈病変が膝下から足部動脈に好発することから、それに対するバイパス術はほとんどが足関節以下の動脈へのバイパスが行われます(図20)。バイパスのために移植される血管は下肢または腕の静脈が使用されます。

カテーテル治療

カテーテル治療とは血管内治療(Endovascular therapy: EVT)といわれ、血管を切開することなく針を刺して そこからカテーテル(プラスチック製の細い管)を血管内に挿入し、カテーテ ルの先に付いている特殊なプラスチック製の風船で狭くなった部分を高圧で押し広げる方法です。簡単な治療なので患者さんの体への負担は小さいのですが、血管を無理に押し広げるため血管が広がると同時に血管の壁が高度に傷められます。血管の壁、特に内膜(壁の内側)に裂け目ができ、また血管壁の細胞は死滅します。“徹底的に血管を広げました”と言う医師がいますが、それは“徹底的に血管を傷害しました”ということですので、その後に起こってくる生体反応が重大な問題を引き起こしてきます。傷害された血管は修復しようと反応をはじめます。傷害が高度で血流が少ない場合には修復前に血液の塊(血栓)ができて急性血栓閉塞を起こすことがあります(図21-1,2)。その時期を乗り越えると次の修復機転として、内面に平滑な膜が形成されますが、問題はこの膜が一定で治まらずに厚さを増し続け(内膜肥厚といい、血管内側の壁が厚くなってくる生体反応)、内腔が再び狭くなってきます。これが再狭窄といわれる合併症で、放置されると壊疽は悪化する一方、血管は再閉塞となります。この反応は1~数か月の間に発生し、全く治療前の状態に戻ってしまい、壊疽は一層拡大します(図22-1,2)。この現象は細い血管ほど起こりやすく、細い血管に病変が発生する糖尿病では繰り返しEVTが必要になるわけです。また石灰化動脈では十分に拡がらず効果が不十分な場合も少なくありません。これらの理由によりEVTは治療が簡単で,太い血管には有効ですが、細い血管や石灰化した血管には効果が不確実で長持ちしないため糖尿病患者さんの血管病変の治療には向いていないのです。