急性動脈閉塞症の中で最も重篤な病態を発生します。
四肢、特に下肢動脈損傷では通常、6時間以内に血行再建を行わなければ下肢の救済は不能となり、切断が必至となります。四肢の血管外傷では血管(動脈と静脈)以外に伴走する神経が損傷され、さらには骨折も伴います。受傷の原因では刃物による傷害(刺創、切創)(図1,2)、鈍器や重いものの強打、挫滅による挫傷(図3,4)(作業事故、交通事故)、日本では稀ですが銃創などがあり、最も多いのは交通事故です(図5)。
動脈の切創、刺創では、大出血の後、急性動脈閉塞症として損傷部分から先に壊死が始まるため止血後に救急車で病院に搬送されますが、救済には緊急血行再建が必要で、受傷後6時間がタイムリミットです。
骨折がある場合は整形外科により骨折の修復をして、その後に血行再建を行いますので、時間の余裕はなく、救済には血行再建の方法や手技に多くの経験と多彩な技量が求められることから優れた血管外科医による治療が不可欠です。神経傷害は切創ならばその部位により神経縫合を行いますが、血行再建が先になります。静脈損傷の場合は大きな障害を残さず、緊急性が低く治療は容易です。損傷部位と受傷原因により重症度は異なりますが、中枢ほど重傷で、挫傷が最も重篤です。
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図1
図148才、男性。農作業バインダーの刃による刺創+挫創。左腋窩動脈閉塞、上腕骨折、神経挫傷。
a. 受傷時の骨折所見
b. 受傷1週間後の創所見
c. 血行再建前動脈造影、腋窩動脈閉塞と修復された上腕骨骨折
d. 腋窩動脈再建と遊離筋皮弁移植による救肢1年後。上肢の運動機能は高度に回復 -
図2
図2電動のこによる大腿動脈、静脈、神経の切断。
a. 電動のこは右利きでは右大腿部内側を受傷する
b. 大腿内側切創
c. 大腿動脈、静脈の修復 -
図3
図3丸太による膝窩後方の挫傷。右膝窩動脈挫傷による急性動脈閉塞。
a. 受傷後手術前
b. 血行再建前の動脈造影。膝窩動脈の遮断、閉塞(→) -
図4
図425才、漁船員。ワイヤーロープが足首に絡まって挫傷。
a. 受傷50時間後の手術前所見
b. 手術前血管造影で足首上の骨折(脛骨、腓骨骨折)と動脈閉塞
c. 血管移植手術による足救済
d. 手術後1年 -
図5
図524才、男性。自動車のバンパー間に挟まれた膝下挫傷。
a. 受傷時の所見
b. 手術前血管造影所見。脛骨、腓骨骨折と膝窩動脈以下の閉塞
c. 夜間の緊急血行再建(バイパス術)による下肢救済。