診断のポイント
- 突発的発症または急激な下肢虚血の悪化で(図1)、塞栓症と血栓症とに大別される。
- 心房細動はないか?;塞栓症の塞栓源は心房細動75%。虚血症状のない例の突発的発症は塞栓症。以前から虚血症状を有する例は血栓症で、慢性動脈閉塞症(閉塞性動脈硬化症、バージャー氏病)が存在する。
- 症状;”Five P”による重症度診断と皮膚温移行帯による閉塞部位診断
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図1
図1左下肢急性動脈閉塞症。急性血行障害によるまだらの紫色の変色が特徴。下肢救済には6~8時間以内に血行再建が必須。
専門病院への移送判断基準
以下の例は薬物療法の効果が期待できないので、6~8時間以内に血行再建術が必要。
- 知覚麻痺の出現
- 足関節血圧測定不能
- 大腿動脈拍動触知不能(総腸骨−大腿動脈閉塞)
症候の診かた
- 知覚異常;閉眼させて患側足趾を触れ、第何趾に触れたかを答えさせる。
- 趾尖や表在静脈圧迫再充満の有無と速度
- 動脈拍動の触知;臍部腹部大動脈、左右総大腿動脈、膝窩動脈、足背、後脛骨動脈
- 皮膚温移行帯;閉塞部位の10cm末梢に皮膚温が急激に低下する境界がある。
- Myonephropathic metabolic syndrome(MNMS)発症の可能性;血尿(ミオグロビン尿; 図2)の有無。大腿を含む一側下肢全体の完全虚血で、運動麻痺、虚血性攣縮、硬直を発生した例で血行再建後に腎不全を伴う重篤な病態が発生する。術前はみられない例が多い。
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図2
図2ミオグロビン尿。
a. 急性動脈閉塞の足部所見
b. 急性動脈閉塞により筋肉が融解して尿にミオグロビンが排出される。これは早晩急性腎不全およびMyonephropathic metabolic syndromeとなる前兆。
検査とその所見の読みかた
- Ankle brachial pressure index(ABI);ABI=0は8時間以内に血行再開が必須。測定可能でも<0.5 高度虚血症状、>0.7虚血症状なし。
- Duplex scan;大腿ー膝窩動脈閉塞をみる。
- MRA、造影CT:胸部大動脈ー膝窩動脈までの粥腫、動脈瘤、騎乗塞栓及び大動脈解離をみる。診断上DSAは必須でない。
鑑別すべき疾患と鑑別のポイント
- Shaggy aorta syndrome/Blue toe syndrome(SAS/BTS);足尖部足底、足趾チアノーゼ、激痛。足背または後脛骨動脈拍動は良好。
- 急性大動脈解離;DeBackey I または III型による分岐部閉塞を忘れてはならない。発症時の高血圧と突発的胸背部痛。
予後判定の基準
- 不可逆性変化に陥る時間;完全虚血では筋肉6〜8時間、神経は短く、皮膚24時間。
- 閉塞部位が同じなら血栓症は側副血行が発達しているので、塞栓症の方が重症。
- SAS/BTS;ABIは診断の目安とならず、鎮痛薬を要する高度疼痛では趾壊死に陥る。
合併症・続発症の診断
- 赤色尿;MNMSによる急性腎不全に注意。CPK,LDH,血清カリウム、動脈血ガス分析(アシドーシス、BE)のチェックと補正
- Compartment syndrome(図3);血行再建術後は急激に浮腫が進行し、区画内圧が上昇して筋肉や神経が圧迫壊死に陥る。下腿の緊満度を経時的にチェックする。特に下腿前区画。
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図3
図3血行再建後の急速な筋肉の腫脹に対する筋膜切開術。これにより神経麻痺や筋肉壊死が防止される。
a. 下腿筋膜切開
b. 大腿筋膜切開
治療法ワンポイント・メモ
- 動脈外傷と大動脈解離以外は、まず抗凝固、線溶療法、血管拡張薬を開始。1〜3日で効果出現、完全血行回復が達成され得る。
- 知覚麻痺;超音波ドップラ−血流音が末梢動脈で聴取されるならば知覚麻痺は出現せず、薬物療法を継続してよい。
- 小塞栓子による限局性塞栓閉塞、バージャー氏病や知覚麻痺のない血栓症は抗凝固・線溶療法が奏功し易い。
手術適応のポイント
- 塞栓症;薬物療法3日間で改善が得られなければ低侵襲で完全血行再建が可能な血栓摘除術に移行する。ABI < 0.7 では間欠性跛行を残すので2週以内に血栓摘除を行う。
- 血栓症;急性期の手術は術式決定上不利な点が多いので、応急的手術か可能ならば薬物療法により急性期を脱する(ABI>0.4)。その後待期手術により完全回復を目指す。血管造影が必須。
- 腸骨-大腿動脈閉塞で、ABI=0、知覚麻痺がある例ではMNMSの発生に対し術中から血液透析が必要。